[朗読]夏の音、夏の匂い

[朗読]夏の音、夏の匂い

2017-11-15    04'05''

主播: 我的眼神锁定你

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介绍:
親に「たまには帰って来て顔でも見せろ」と言われたので久々に帰省することにした。 仕事を始めてから休みの日は疲れて寝てばかり。 たまには親孝行もいいかと思ったのだ。 自分で作らなくても美味い食事が出てくる…それも魅力的だった。 早朝の電車に乗り込み、実家の最寄り駅までぼんやり景色を眺める。 徐々に減っていく背の高いビル群。 地面を覆っていたアスファルトの面積が減り植物が増えていく。 夏の日差しにも負けない濃い緑を眺めながらの移動は、思っていたより悪くなかった。 実家(じっか)はあの頃(ごろ)と変わらずそこにあった。 何かとやかましい両親に迎えられ、仕事で疲れた体を休めるために横(よこ)になる。 風鈴(ふうりん)の音色(ねいろ)と蚊取り線香(かとりせんこう)の匂い。 どちらも今の自分の家とは無縁(むえん)のもの。 まどろみながらどこか懐かしさに包まれる(つつまれる)。 線香の香りと仏具の音で目を覚ますと、親戚が仏壇参りに来ていた。 世間話や近況報告をしながらスイカを頬張る。 キンキンに冷えた大きなスイカはやたら美味かった。 延々(えんえん)続く両親と親戚の会話に居心地(いごこち)の悪さを感じて海へ出かける。 繰り返される波の音。 懐かしい潮の香り。 手頃(てごろ)な日影(ひかげ)を見付けて腰をおろし、途中で買ったアイスを頬張った。 夏の暑さを気持ちいいと思ったのはいつ以来だろう。 数年ぶりに夏が来た事を実感した気がした。 そのまま近所の祭りへ。 昔と変わらない賑やかさに思わず笑みがこぼれた。 蝉しぐれと屋台の匂い。 子ども達が親からもらった小遣いで何を買うか真剣に悩んでいる。 それを横目(よこめ)で眺めながら、何年ぶりか分からないラムネを飲んだ。 閉じ込められたビー玉が涼しげな音をたてて揺れる。 夕闇と共に人が増え、ざわめきが大きくなる。 和楽器(わがっき)の奏でる(かなでる)祭囃子(まつりばやし)。 神輿(みこし)を担ぐ(かつぐ)声(こえ)。 汗とビールと日本酒(にほんしゅ)の匂い。 大人達が豪快(ごうかい)に、そして陽気(ようき)に酔っている。 人酔いを覚まそうと遠回りした帰り道。 微かに聞こえる虫の声。 祭りの残り香(のこりか)をさらうように風が吹き、少し汗ばんだ体に心地よかった。 遠くで花火が上がる音を聞きながら歩く。 ふとした瞬間に音や匂いから実感する夏。 子供の頃は当たり前だったのに、大人になって日常から縁遠く(えんどおく)なったもの。 「また来年も来られるといいな」そう呟いて夜空に咲く大輪の花を見上げた。