吾輩は猫である22(有带原文)

吾輩は猫である22(有带原文)

2021-10-25    03'58''

主播: 丹青猫

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介绍:
そんな浮気な男が何故牡蛎的生涯を送っているかと言うのは吾輩猫などには到底わからない。ある人は失恋のためだとも言えるし、ある人は胃弱のせいだとも言うし、またある人は金がなくて臆病なたちだからだとも言う。どっちにしたって明治の歴史に関係するほどな人物でもないのだから構わない。しかし寒月君の女連れをうらやまし気に尋ねたことだけは事実である。寒月君は面白そうに口取の蒲鉾を箸で挟んで半分前歯で食い切った。吾輩はまたかけはせぬかと心配したが今度は大丈夫であった。「何2人とも去る所の令嬢ですよ、の方じゃありません、」とよそよそしい返事をする。「ナール」と主人は引張ったか「ほど」を略して考えている。寒月君はもういい加減な時分だと思ったものか「どうもいい天気ですがお暇ならご一緒に散歩でもしましょうか、旅順が落ちたので市中は大変な景気ですよ」と促してみる。主人は旅順の陥落より女連れの身元を聞きたいと言う顔で、しばらく考え込んでいたかようやく決心をしたものと見えて「それじゃあ昭雄としよう」と思い切って立つ。やはり黒木綿の紋付羽織に、兄の形見とかいう20年来着古した結城紬の綿入れを着たままである。いくら結城紬が丈夫だって、こうきつづけてはたまらない。処所が薄くなって日に透かして見ると裏から付きを当てた針の目が見える。主人の服装には師走も正月もない。普段着をよそ行きもない。出るときは懐手をしてぶらりと出る。他に着るものがないからか、あっても面倒だから着替えてないのか。吾輩にはわからぬ。ただしこれだけは失恋のためと思われない。