◆著者プロフィール
村上龍さんは、1952年、長崎県生まれ。武蔵野美術大学中退。
在学中の76年に『限りなく透明に近いブルー』で、群像新人文学賞、芥川賞を受賞。
以後、『コインロッカー・ベイビーズ』『村上龍映画小説集』『イン ザ・ミソスープ』『希望の国のエクソダス』『13歳のハローワーク』『半島を出よ』『歌うクジラ』『55歳からのハローライフ』など旺盛な作家活動を展開。かたわらTV『カンブリア宮殿』のMCとして毎週、出演中。
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
今回紹介する、村上さんの本は、「すべての男は消耗品である。Vol.14」にあたります。
いきなりですが、村上さんの「あとがき」を紹介します。
「この『消耗品』の最新刊には、『意味のない停滞』というタイトルを付けるはずだった。だが、思うところがあり、それは止めて、『ラストワルツ』にした。
『意味のない停滞』というタイトルの本を買いたいという人は少ないだろうと思ったからだが、実際は、『ラストワルツ』の方が当然ながら、ニヒリスティックだ」
この『ラストワルツ』というタイトルには、別れる直前の恋人たちが最後のワルツを踊っている、そんなイメージがあるようです。
別れたあと、二人はどのように生きていくのか。
孤独をどう克服していくのか。
そんな問いかけが、このエッセイにはこめられているのかもしれません。
作中には、「どこを探しても希望のかけらもない」という衝撃的な一文も出てきており、村上龍ならではの世界観が広がっています。
では、『ラストワルツ』から一部引用しまして、ご紹介します。
「人はどう生きるべきかという、有名で、重要だとされている問題がある。多くの文学でテーマとなっているし、その問いを軸にして、文芸批評が書かれたり、あるいは、政治や経済といった大きなファクターを決めたり、政策を選んだりするときの指標となることもある。
どう生きるべきか、という問いは、わたしたちの社会では、おもに精神論で語られることが多い。
他人に優しくとか、思いやりを持ってとか、弱きを助けるとか、自立して他人に依存しないとか、そういったことだ。
わたしは、生まれてからこれまで、「どう生きるべきか」などと考えたことはないし、今も考えない。
わたしが子どものころから考えてきたのは、「どうやって生きていくのか」ということだった。つまり、何をして食っていくか、という具体的で切実な問いだった。
わたしは、幼稚園のころから、「お前はサラリーマンにはなれないし、ならないほうがいい」と両親や親類や教師たちから言われ続けた。
4歳、5歳のころから、「給料取りにはなれないのか、じゃあどうやって生きていけばいいんだろう」と考えるようになった」
(P021-022より)
「一般的に、「本や雑誌が売れない」という状況が続いているらしい。友人編集者たちがよく言うのが、「占い、ダイエットなど健康、自己啓発本、食べものなど、どちらかと言えば、どうでもいいものがベストセラーになることが増えた」みたいなことだ。
そんな一種の愚痴には「下らないものばかり売れるイヤな時代」というようなニュアンスが含まれている気がする。
だが、わたしはそういった本が好まれるのも理解できる」
(P131より)
「わたしは「歳はとりたくないものだ」とは思わない。逆に、20代のころは、「早く歳を取りたい、このまま30歳になることができたらどんなにいいだろう」と思っていた」
(P163より)
「もっとも戸惑うのは、若者たちだろう。今の若者たちは典型的な成功モデルを見出すことが極めてむずかしい。大会社に入って出世を目指すのか、起業するのか、社会貢献の道を選ぶのか、それとも趣味を生かしたりして個人的で小さな幸せを得ようとするのか、どれがもっとも合理的な選択なのか、誰も示してくれない。
自分で決めるしかないが、決めるためには、ある程度の実力が要る。
(P061より)
「一部の特別に優秀な若者を別にすれば、大多数の若者は、どんなトレーニングをして、どんな職種を目指せばいいのか、わからないだろう。多く資産を持つ一部の人を別にすれば、大多数の中高年は、どうやって老後を生きればいいのだろうかと、不安に怯えているはずだ。わたしたちは、一般的な解がない時代を生きている。「サバイバルするための指南書」のようなものがあればいいのだが、若者の場合、たとえば親の経済状況だけで大きく事情が違ってきたりするので、そんな書物は現れようがない。そして最大の問題は、「一般的な解がない」時代を、これまで誰も経験していないということだ。」
(P134-135より)
シリアスですね。
村上さんのいう「寂しくても依存しないで生きる。」という姿勢は、年齢、性別にかかわらず、今とこれからを生きる私たちにとっての重要なテーマだと思いませんか?
どうでしたか?
18編のエッセイのなかに込められた村上さんのメッセージ。
納得したり、ギクッとしたり、考えさせられたり、村上龍の世界を堪能してみませんか。