私たちがいつも行く阿佐ヶ谷(あさがや)の居酒屋は朝まで営業している。客席の間が離れているので居心地がいい。私は家にいるように寛(くつろ)ぎながら、まじまじと、そのフライヤーを見た。
「絵描く人やのに、フライヤーに絵まったく載ってへんのって、おかしない。」
「あ、ほんまやな。」
瀬田が呑気(のんき)にそんなことを言うから、私は笑ってしまった。
「でも、夏目、絶対好きやから。」
私も絵を描いている。
とはいえ、それだけでは食べていけない。週に5日ほど、新宿三丁目にあるバーでアルバイトをしながら、なんとか暮らしている。まさに細々とした生活というやつである。