『想象电台』1.4-爵士乐·三月的水波

『想象电台』1.4-爵士乐·三月的水波

2017-07-14    18'48''

主播: 读什么日语

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介绍:
《想象电台》1.4 作者:いとうせいこう 続きまして、こちら、メールを読みましょう。想像ネーム箪笥屋のアタシさん。「DJアークさん、ていうのもなんだか感じが違うので、芥川君と呼びます。覚えていますか?中学校の時に同じ松本先生のクラスにいた前田陽子です。たんす屋の前田の娘です。芥川君のお父様と私の父がライオンズクラブでよく交流していました。 それはともかく、芥川君、私は今日の午後、多分芥川君だろうと思う人の姿を見ました。つかまっていないと立っていられないほど部屋が揺れて揺れて、それが泣き出しそうなほど長く続いた後、私は慌ててラジオをつけた。すると、速報で津波の高さは六メートルだという。そのぐらいなら、足の悪い母親をおぶって山のほうに少しいけば大丈夫だと思って、私は二階の自室から階段を降りて、父に声をかけ、母にありったけの服を着らせて表に出た。 最初は海のほうを確かめ確かめ、母の手を引いていた。そのうち、近所を気にするようになった。みんなはどうしてるんだろう。走り出している人もいれば、家の中で家族の名前を呼んでいる人もいた。そうやって辺りを見回している時、右手にある五階建てのマンションのベランダに赤いヤッケを着た男の人が見えた。海を方を見ていた。その人が芥川君だと思ったのは、前日近所の同級生に芥川君が東京から帰ってくると聞かされていたからで、どこに引っ越してくるのかは知らなかったけど、小さな町だし、だいたいはあそこ辺りだろうと無意識に見当をつけていたのでしょうね。 なぜあなたが逃げないのか。よくわからなかった。六メートルと最初に情報が出回ったからか。長く東京にいて、避難訓練なんかしなくなっていたからか。あなたは外の誰かに声をかけているようにも見えた。私は長く気にとめていられなかった、父を励まして、細い道に入って、駐車場で両親を車に乗せて、坂を登った。 そこから先のことを詳しく書く気になれないだけど、私はたまたま出会った顔見知りのおばさんに窓ガラスを叩かれ、念には念を入れろうと言われて、目標をもっと上にした。父と母を材木工場のある高台までつれていって、車から降ろし、私は母が気にしていた預金通帳を取りに急いで家に戻ろうとした。案外道がすいていたし、うまくいくと思った。ほんの少し一人で運転している間に、遠くで信じられないことが起き始めのを見た。空の下半分ぐらいが黒く見えてきた。六メートルなんて嘘だと分かった。あちこちの家が同時にふらふらと動き始め、そこにビルと自動車が加わった。建物という建物が上下左右にゆれて移動した。車を荒っぽくUターンさせて、私は両親のもとへ急いだ。今度は行く道行く道がほかの車でふさかっていた。私は車を捨て、振り返し振り返しながら走った。 芥川君、あれから随分長い時間が経った。知らないうちに、私の体もずぶぬれになっていた。振り返って下を見た時、赤いヤッケの人が高い場所に持ち上げられ、グルグル回るのをちらりと見た気がした。それから暫く水の中に見えなくなった。私も水に飲み込まれていたのかもしれない。無我夢中だったので、記憶は連続していません。ただ、やがて赤いヤッケは右手の川だったあたりの上に現れて、すごい速さで移動していた。そして杉の木が山を覆っている方向に赤いヤッケが流されてゆき、ついに木の一本に引っかかって、あちこちにひっぱられているのを見たと思う。水がひいてからも何度か私はその赤いヤッケの人に目をやった。いつ見ても動かなかった。私自身も何かに体を打ち付けられ、痺れて動けなかった。そのまま日が暮れてしまった。何時間もあなたはその姿のままでいました。芥川君、それがこんなに饒舌にしゃべっているのを分かって、少しほっとしました。早く地上戻ってきてください。」 いやいや、ついつい一気に読んじゃいましたけど、何から喋っていいか。まず前田さんのこと、よく覚えております。お久しぶりです。そして実際、書いてくれたとおり、赤いヤッケ着てますよ、今。だけど、僕にそんなことがあったなんてまったく記憶にない。本当に分からない。唯一記憶にある体が持ち上がる感覚は浪にのまれる僕だったってことですか。そもそもこの杉の木の上は六メートルなんてもんじゃないですよ。倍以上はあると思う。そんな高さまで浪が来るもんですかね。ただ、何時間も動いていないよってご指摘、それを言われちゃうと、確かに自分は暫く動けていないわけで、雪がしんしんとふる夜中になぜヤッケ一つでじっとしていられるんだろうとは、一方で訝しんでもいるんですよ。だから、うっすら思ってるんだけど、僕はひょうっとすると、その、ひょっとするんじゃないかって、まさかとは思うんだけど。とにかくこれはどうしたって普通じゃない。えーと、あのう、ちょっとだけブレイク入れます。ここで何か音楽を。じゃあ、ボサノバの巨匠アンドニオ カルロス ジョビンで、3月の水。知らないけどって方も想像でお聴き下さい。ただし、僕が戻ってくるまで何度も繰り返しかけますんで、その間みなさんも用事を済ませたり、夢の中で幸せを噛みしめたり、ご自由にお過ごしいただければ、と。 では、どうぞ。