血別 山口組百年の孤独

血別 山口組百年の孤独

2016-01-31    11'11''

主播: 索谓

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介绍:
◆著者プロフィール 著者の太田守正さんは1959年、大阪で愚連隊浪速会会長に就任します。 1964年には山口組山健組健竜会に参加し、その後山口組系太田興業組長となり、直参の組長の一人となります。 そして2008年に山口組から除籍処分を受け、現在に至ります。 こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。 さて、まず始めにヤクザの組織をよく知らない方にその仕組みをご説明しますと、「山口組」の組員というのは100人も居ません。 ですが、「山口組」の組員は、それぞれがいずれかの組の組長なんです。 つまり、山口組というのは親会社のようなもので、そこに山口組の組長が一人、副社長的な立場の若頭が数人、その下に組員、それぞれの組の組長がいるわけなんですね。 今回の著者太田さんは、一時期、この山口組の組員、いわゆる直参といわれる立場の人でした。 そんな太田さんですが、2008年に山口組から「除籍」という処分を下されています。 このきっかけとなったのが、これまで謎とされていた「六代目山口組造反劇」です。 六代目山口組執行部に対する造反を企てたとして、太田さんを含む、当時の有力者達が「絶縁」や「除籍」という処分を下されたこの事件。 山口組は五代目体制の頃から、マスコミ取材への対応を禁止していましたので、この事件について山口組関係者は語ることがなく、事件の真相は長らく謎のままでした。 それが最近になって、元山口組直参後藤組組長、後藤忠政氏の『憚りながら』、元山口組直参盛力会会長、盛力健児(せいりき・けんじ)氏の『鎮魂』など、この事件で山口組に処分を下された、元直参の組長達がそれぞれ書籍を出版し大ヒットを記録し、それに伴い事件の内情が明るみに出てきたのです。 そして、今回紹介している『血別』も元山口組直参太田興業組長、太田守正氏が書かれたとあって、大変話題を呼び、発売から数日で初版が完売、急遽増刷となった一冊です。 特に本書『血別』は、先ほど述べた 盛力健児氏の『鎮魂』に対して反論をしている部分が多く、「六代目山口組造反劇」の謎を読み解く上で、盛力氏とは別の、貴重な視点を与えてくれる一冊といえます。 そもそも本書によれば、著者の太田さんがこの本を書かれたきっかけは、盛力健児氏の『鎮魂』が、まるで事実と違うと思ったからだそうです。 その一つに、太田さんら直参の組長数名が処分されるきっかけとなった2008年に行われたある会合のお話があります。 秘密の集まりとして開かれたこの会合では、山口組上層部へのクーデターを起こすのか?どうなのか?という話題になり、結論の出ないまま解散、また後日に……という流れだったのですが、翌日には山口組本家に情報が筒抜けになっていて、関係者が「絶縁」や「破門」といった処分をされてしまいました。 そして、この会合に盛力氏は参加していないにも関わらず、自著でこの会合の具体的な発言内容などに触れていることを、太田さんは強く批判されています。 なまじ盛力氏の本が売れているだけに、それが「事実」であると思われたら困る。 その会合で同じく処分された、太田さん自身の兄弟分の名誉を守りたい、というのが、太田さんが本書を執筆された大きな動機の一つだったようです。 また、太田さんが本書を執筆されたもう一つの動機は、かつての自身の親分であり、親交も深かった、渡辺芳則元山口組五代目組長の名誉を守りたい、ということもあったそうです。 渡辺五代目組長は、マスコミ取材禁止という組織方針を採った張本人であり、また寡黙な人物でもあったので、その人となりはあまり外部に知られていませんでした。 太田さんは、前述の盛力氏や他のマスコミ・業界ライターの書く五代目の人物像の大半は、虚像であるといっても過言ではないといいます。 太田さんによれば、渡辺五代目は周到な根回しに秀で、大組織を統括するうえで、きわめて合理的な発想をもった人物だったとのことです。 この太田さんの言葉には、信憑性があります。 なぜならそれは、太田さんを山口組に誘ったのが、組長になる前の渡辺氏であり、それ以来、渡辺氏のつくった健竜会、渡辺氏が組長となった山健組、五代目山口組において、一貫して渡辺氏の息づかいを感じてきた人物こそが、著者である太田さんだからです。 つまり、太田さんがヤクザの世界に入り、その生き方、所作を学んだ先輩こそが渡辺五代目だったというわけなんですね。 先ほども述べたように、その人となりがあまり外部に知られていない渡辺芳則五代目山口組組長。 この人物を知る上で、本書は貴重な一冊といえるでしょう。 以上述べたとおり、 「六代目山口組造反劇の事実」 「五代目山口組組長渡辺芳則氏の人物像」 この2点を知る上で、本書は大きな価値を持ちます。 そして、本書の特徴として、この本の内容は全て太田さん自身が体験した事のみを記述しており、伝聞や推論を避け、人物の名前は可能な限り実名を上げ注釈もつけています。 つまり、「事実を書く」そういう著者の心意気が感じられる本に仕上がっているんですね。 最後に、あとがきにて太田さんは本書をこのように締めくくっています。 「書いた以上は逃げも隠れもいたしません。疑問や正すべき誤りがもしもあったなら、どうぞご指摘下さい。説明しに来いと言われれば、どこにでも出向く所存です。ご購読の儀、拙い文章を最後までお読みいただいた事、まことにありがとうございました。」 強い意思を感じられる美文ですね。 なお、タイトルの『血別』は「血の別れ」と書きますが、これは「熱き血を通わした者たちへの、これはわしからの血の証言、そして別れの書である。」とのことです。 引退した元極道の告白本。 戦後のヤクザ社会を知る上で、重要な本となりそうです。